海苔が消える日?陸上養殖という新しい選択肢
おにぎりから海苔が消えていく
コンビニのおにぎり売り場で、海苔が巻かれていない商品が増えていることに気づいた方もいるかもしれません。これは気のせいではなく、日本の海苔生産が今、大きな危機を迎えているサインです。
この記事では、海苔の生産が今どうなっているのか、そしてその状況を変えようとしている「陸上養殖」という新しい取り組みについて、専門知識がなくても分かるようにご紹介します。
海苔の生産量は最盛期の半分以下に
日本の海苔生産量は、地球温暖化による海水温の上昇や海水環境の悪化、そして生産者の減少・高齢化などが重なり、生産量が最も多かった2000年代初頭と比べて半分以下まで落ち込んでいます。
直近のデータでも、この傾向は続いています。令和6年(2024年)の海苔類の収獲量は19万4,100トンで、前年よりも6,900トン(3.4%)減少しました。一方で需要は変わらないため、海面養殖による海苔は価格が上昇し、生産額としては前年より10%増加するという、量が減って値段が上がるという状況が生まれています。
生産者の数そのものも大きく減っています。海苔養殖を行う経営体(生産者)の数は、ピーク時の15分の1程度まで減少しました。その分、1つの経営体あたりの生産量は約30倍に増えており、少ない生産者が大量生産を担う構造に変化しています。これは裏を返せば、一人ひとりの生産者にかかる負担が非常に大きくなっているということでもあります。
なぜ海苔は育ちにくくなったのか
海苔は昔から、海の上に網を張って育てる「海面養殖」という方法で作られてきました。この方法は海水温や海水中の栄養分(栄養塩)に大きく左右されます。
近年は次のような要因が重なり、海面での養殖が難しくなっています。
- 海水温の上昇:海苔は本来、冷たい海水を好む海藻です。温暖化により海苔が育つ期間や場所が狭まっています。
- 栄養塩の減少(貧栄養化):海水中の栄養分が少なくなることで、海苔の生育が悪くなり、色や品質も低下しやすくなります。
- 生産者の減少・高齢化:海苔養殖は早朝からの重労働で、後継者不足が深刻な業種のひとつです。
こうした要因は、天候や気候変動と直結しているため、生産者側の努力だけではなかなか解決できません。そこで注目されるようになったのが「陸上養殖」という方法です。
陸上養殖とは何か
陸上養殖とは、海の上ではなく、陸にある水槽やプラントの中で海苔を育てる方法です。海水(多くは地下海水)を人工的に管理された環境に取り込み、水温や栄養分を人の手でコントロールしながら育てます。
この取り組みは決して最近始まったものではありません。三島食品は2020年6月から、広島県福山市の施設で「すじ青のり」という海藻の陸上養殖を開始し、一年を通じた収穫と、異物が混入しにくい環境での生産を実現してきました。
おにぎり用として最も一般的な「黒海苔(スサビノリ)」についても、研究が進められてきました。シーベジタブルという企業は、黒海苔の陸上での量産に成功したことを発表し、2025年2月時点で乾燥重量100キログラム、板海苔にして約3万枚分に相当する生産を実現しています。
この技術は一朝一夕に生まれたものではありません。同社はもともと2016年に、地下海水を使った「すじ青のり」の陸上量産に世界で初めて成功しており、そこで培った技術を土台に、2018年から黒海苔の研究開発に着手し、段階的に量産技術を確立してきた経緯があります。
陸上養殖のメリット
陸上養殖には、海面養殖にはない特徴があります。
- 栄養分をコントロールできる:海水中の栄養塩が少なくなっても、水槽内の栄養状態を人為的に調整できるため、品質を安定させやすくなります。
- すべてが「一番摘み」になる:海苔は成長の初期に摘み取ったものほど柔らかく風味が良いとされますが、陸上養殖ではすべての収穫が、この最も品質の高いタイミングのものになります。
- 異物が混入しにくい:地下海水を使うことで、天然の海水に含まれる砂やごみなどの混入が少なく、清浄な環境で育てられます。
- 天候に左右されず、通年で生産できる:季節や海の状態に依存しないため、安定した供給計画が立てやすくなります。
海苔の価格が上がっている理由
近年、海苔の価格が上がっていると感じる方も多いはずです。実際に、黒海苔の価格は数年前と比べて2倍以上に高騰しているというデータもあります。これは生産量の減少と需要の高さが重なった結果であり、今後も海面養殖だけに頼っていては、この状況が改善しにくいと考えられています。
だからこそ、海面養殖に代わる、あるいは補完する存在として、商業的に成立する陸上養殖モデルの確立が急がれているのです。
まとめ:海苔の未来を支える新しい技術
海苔は、おにぎりや寿司など、日本の食文化に欠かせない存在です。しかし気候変動や生産者の減少により、これまでの海面養殖だけでは、今の生産量を維持することが難しくなってきています。
陸上養殖は、こうした課題に対応するために生まれた技術であり、まだ発展途上ではあるものの、天候に左右されない安定生産や高品質な海苔づくりへの可能性を持っています。今後、海面養殖と陸上養殖がどのように組み合わされていくのか、海苔業界の大きな転換点として注目していきたいテーマです。